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労働者の健康が毎年悪化し続けている

ショックなことだが、日本の会社で働く人々の健康状態は、
毎年、少しづつ悪化し続けている。

厚生労働省は、労働者数50名以上の会社に対し、「定期健康診断」の実施人数やその結果について、労働基準監督署宛に毎年その結果を報告することを義務付けている。その統計の中に有所見率(健診で1つ以上×がある人の割合。「異常所見率」ともいう。)が公表されている。

労働者の有所見率の推移

平成02年 23.6%  (所見率=1以上の異常値がある人の割合)
平成03年 27.4%
平成04年 32.2%
平成05年 33.6%
平成06年 34.6%
平成07年 36.4%
平成08年 38.0%
平成09年 39.5%
平成10年 41.2%
平成11年 42.9%
平成12年 44.5%
平成13年 46.2%
平成14年 46.7%
平成15年 47.3%
平成16年 47.6%
平成17年 48.4%
平成18年 49.1%  (出典)厚生労働省

この15年間の間で、健診の数値に「異常がある」という人の割合が、「4人に1人(23.6%)」から「2人に1人(49.1%)」に急上昇している。なぜこんなに日本人は、健康状態が悪くなってしまったのか。私の推測では、 (1) 残業と(2) 労働環境の悪化と不安が、大きな原因のひとつだと考えている。

なぜ若者が病気になってしまうのか

若者は簡単には病気にならない。20代の若い社員が多ければ、普通は有所見率は低いはずである。しかし、複数の「IT企業」の健康診断結果を見ると、国内平均が約50%前後に対して、60%~80%程度とことごとく悪い結果となっている。しかも、うつ病にかかっている人が、他業種に比べ圧倒的に多い。

これまでに私が知っている最悪の所見率は、某IT企業であるが、有所見率80%という数値をみたときは、何かの間違いかと思ったぐらいだ。社員の平均年齢は28歳程度と低く、「病気」とは無縁の年代の人たちばかりなのに。。。先日行った若い女性が多い某「アパレル」企業は平均年齢28歳と某IT企業と同じ水準なのだが、有所見率は20%程度と低く、社内は活気にあふれていた。

なぜ、80%なんてことになったのか。。。。

生活習慣に関するアンケートしてみると、そのIT企業に勤める社員の病気になった原因が見えてきた。

帰宅時間 23~25時
就寝時間 2~4時
起床時間 8~9時
出社時間 10~11時
食事の回数 1~2回/日
夕食が外食の回数 6回/週
コンビニ弁当 週5回程度
ひとりでお酒を飲む回数 6回/週

深夜まで続く長時間労働の先にある悲劇

友達と遊びに行ったりする時間も暇もなく、帰宅後、ひとりでネットかTVを見て寝るだけの毎日。
話しをする人は、もっぱら会社の同僚だけ。コンビニのお弁当は最近でこそヘルシー感を売りにしているが、食品添加物の固まりであることに変わりはない。カップラーメンやお菓子を食事替わりにしている人も多かった。この状態を1年間続けると、長時間労働による睡眠不足から、疲労やストレスが慢性的に溜まったままになる。深夜、寝る直前に食べる悪質な油の多い外食またはコンビニ弁当でどんどん太り始める。そこにアルコール。当然、コレステロール値が上がり、脂肪肝になったり、アルコール性の肝機能障害を起こすことになり、疲労しやすく、疲労が抜けない体になる。

若者は深夜に及ぶ長時間の労働で簡単に病気になる

実際に、このIT企業は、ものすごく太った人とものすごく痩せた人が目立ち、普通の体型の人があまりいないようだった。

更に、職場の人以外の人と話をする機会がない。職場での人間関係がよくないと、メンタル的にも追い込まれてしまい「かなり厳しい状況」となっていることが容易に想像できる。

何故こうなってしまったのか。原因は、バブル期とその後の長い不況にある。

初めて日本人が深夜まで働くようになったバブル期

平成2年(有所見者23%)は、バブル期のピークである。この頃のサラリーマンは、皆、スケジュールが一杯で、仕事がスケジュールが一杯に詰まっている状態の若く高給なサラリーマンのことを「ヤングエグゼクティブ」などと呼び、「仕事のできる若者」がとてももてはやされていた。深夜1時、2時まで毎日、仕事をすることが武勇談となったのは、この頃からだ。(私はもこの頃、まだ新人でしたが、上司からタクシーチケットを1冊もらい、深夜まで残業すればタクシーが利用出来た。)友人同士の飲み会も、23時に集合などということが日常的で、帰宅は3時、4時、朝まで飲んだなどということが、誉められたりしていました。この頃、飲み歩いた「つけ」は、有所見率の推移を見ると、平成2年の23%から平成5年に33%に急上昇したことで確認ができる。

ストレスの発散ができなくなったバブル崩壊と長引く不況

その後、突然、バブルが崩壊し、企業の大リストラが始まる。不況の時代は、上司がリストラされ、同僚がどんどん転職していった。新卒者の採用を抑えたことから、残った社員に、仕事の負担が重く圧し掛かる。前向きな仕事は減り、事業規模縮小のための仕事や、コンプライアンスのための事務仕事ばかりが増えたこの時代。

平成2年のバブル期に、極端な深夜残業が当たり前になってしまった日本のサラリーマンは、
その後の不況期には、賞与や給与が激減する一方で、重たい住宅ローンを抱え、結果、飲みに行く機会すら激減し、ストレスを発散する場も無くなり、ただただ敗戦処理をしていたという人が多かったはずだ。

当然、予備軍を含めて病気になる人が、うなぎのぼりに増え始める。

平成8~9年頃に、若い経営者が率いるIT企業(ソフトバンクなど)の株式公開が始まり、不況は徐々に解消に向かいます。
この頃のIT企業は、日進月歩の技術革新に乗り遅れないことが最も大切で、徹夜を何日も続けられ、一晩中でも働ける強い信念をもった向上心のある社員が、業績を伸ばした。彼らの力が新興企業を支え、老舗の上場企業の株式時価総額をどんどん追い抜き、確実に時代の流れを変えた。
この頃はまだ、「うつ病」になる人は、ほとんどいなかった。急成長が続くIT業界は、いわば花形であり、この業界で働くことが名誉なことだったし、給与水準も高かった。「昭和の時代」は会社のために働く人が多かったが、自分のためにしか働かないという人が増えたのも、この頃からだ。
IT企業の急成長がストップし、シェア争いと低価格競争が始まった平成15年頃から、IT企業を中心に「うつ病」になる人が増え始める。給与は上がらず、深夜まで続く長時間労働に何の未来も感じなくなる。自分のための残業と呼べない長時間の「労働」は人を病ませるだけである。

 

現在は、企業のリストラなどは、ほぼ片付いて、新卒の採用も増え始めた状態である。

しかし、有所見率は毎年1%強づつ上昇を続けています。。。。

35歳前後の男性社員がメンタル疾患にかかる背景

日本の世の中は、平成以降の15年間で、終身雇用制度というある意味、安定した状態から、欧米型の成果主義、能力主義に変わり、同時に転職者数が激増した。
バブル崩壊直後の就職氷河期に社会人となった現在35歳前後の社員は、不景気だった当時は、どこの会社も社内の雰囲気は悪く、残業が異常に多く、新人を育てる先輩も忙しく、飲み会などの場も少なく、不満が溜まった先輩から、大量の仕事を押し付けられた世代だ。学生と社会人のギャップがものすごく、転職を考えざるを得ない悲惨な状況が当時確かにあった。現在35歳前後の方は、同期が少なく、出世が早いなどとおだてられ、がむしゃらに働き続け、結婚もして、住宅ローンも抱え、子供が生まれたばかりか、幼稚園に行っているかという世代の人たちだ。そろそろ、課長になるはずの年齢だが全員が課長になれる訳もなく、成果主義、能力主義の社会となっているため、後輩に抜かされて管理職になっていない人も多い。そして、条件のよい会社に、転職できる年齢ぎりぎりの世代でもある。実は、この35歳前後の世代が、現在、最も「うつ病」にかかる割合が多い。

経営者の皆様へのお願い

個人が病気になった場合、労災などの特別な場合を除き、大半は自己責任で治療をします。
しかしながら、この健康診断結果の有所見率(異常所見率)の推移を見ていると、個人の自己責任の範囲を超えていると思わざるを得ません。景気や国の責任にしたいところではありますが、ほとんどの責任は、会社にあると思います。
深夜に及ぶ長時間の労働が、部下たちの健康被害につながっていることを、上司となる人は意識してほしいです。
また、事業主や経営層の人は、まず、この15年間で会社が大きく「病んでしまった」という自覚を持ってほしいです。
もし健康な会社だと思うのなら、是非、15年前の会社の有所見率と現在の有所見率を調べてみて下さい。社員が50人以上いるのであれば、必ず人事部が労働基準監督署に報告しているはずです。
全社員の平均を調べ、有所見率を見れば、社員が抱えているストレスや悩みの大きさを知ることができるのです。

そして、できれば、長時間の労働をしなければならない現状を改善してほしいです。赤字部門から撤退するなど厳しい選択をする必要があるかもしれませんが、無理をして長時間働いても、病気になる人を増やすだけで、最終的に何も残らないことをバブル崩壊の時に経験したはずです。

会社が不健康な社員をつくり、不健康な社員は周りにいる社員にも悪影響を及ぼします。そして会社全体を荒廃させます。

健康で元気な社員にしか、会社を成長させることはできません。 健康な社員を増やす視点を持ってほしいと思います。

株式会社ドクタートラスト
代表取締役 高橋雅彦

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